今年7月、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に登録されました。江戸時代の禁教という過酷な状況下、さまざまな形で信仰を守り続けた信徒たち。島々に点在する教会や天主堂は静かなたたずまいの中に、たくましい歴史を語りかけてきます。人々との素朴なふれあいや、豊かな海の幸も魅力な長崎の五島列島と平戸へ出かけてきました。(西本幸志)
過酷な歴史 生と信仰を肌で感じる
長崎の佐世保港から高速船で約1時間20分の新上五島町。幕府の禁教政策のもと、“潜伏”キリシタンたちが信仰の共同体を維持するために移り住んだ集落の一つ「頭ヶ島(かしらがしま)の集落」にある「頭ヶ島天主堂」をめざした。島で多くの教会堂を手がけた鉄川与助による重々しい外観。中に入ると花のレリーフが随所に施され、華やかな雰囲気がただよう。まさに内なる信仰心を大切にした人々の気概が伝わってくるようだ。経済的に苦しい信者のために建設費をできるだけ抑えたいとの与助の思いで、地元産の砂岩が使われている。
続いて「ほぼ無人」の状態である野崎島の「旧野首(のくび)教会」へ。戦後は過疎化が進み、廃村となった今、島には400頭以上の野生のニホンジカがすむ。海風が吹き付ける丘の上にレンガ造りの教会がそびえ立つ様子はどこか神々しい。
江戸時代に入り、幕府が禁教令を発布した後、外国人宣教師が国外追放される中で、宣教の拠点があった長崎と天草地方では、ひそかに祈りが続けられた。18世紀末には信心深い人たちが五島や黒島などの島々に移住。指導者を中心に信仰を維持、実践するための共同体集落が各地に形成された。山や島、聖画像、神社のほか、アワビ貝といった身近なものを拝み、信仰を守ったという。1873(明治6)年のキリスト教解禁後に建てられた教会や天主堂に立ち、建築までの長い“潜伏”期間の人々の営みに思いを巡らせた。NPO法人長崎巡礼センターの事務局長・入口仁志さん(72)は、「禁教にも屈せず、組織を構成しながら祈り続けてきた人たちの生きた証しを感じてほしい」と話す。
漁師バイキングが人気 平戸
ご当地の味を楽しみに九州本土と結ばれた平戸市にも立ち寄った。漁師の妻たちが営む食堂「母々(かか)の手」へ。夫が水揚げした旬の魚の刺し身や地元野菜を使った総菜などが多彩にそろう「漁師バイキング」が人気を呼んでいる。
1895(明治28)年創業の森酒造場では、今回、世界文化遺産にも登録された春日集落に広がる棚田米を原料にした日本酒「Firando(フィランド)夢名酒(むめいしゅ)」が評判。外国文化が早くから流入した平戸らしいワイン風のボトルもおしゃれで、お土産にちょうど良かった。
- 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産とは
- 長崎・熊本の両県に点在し、潜伏キリシタンたちの潜伏から終わりまでの歴史を物語る12の資産から構成される。潜伏キリシタンたちの集落や、戦場跡、天主堂などが対象で、独自の宗教的・文化的伝統が評価され、ユネスコの「世界文化遺産」に登録された。各集落には教会や信仰を支えた風景が広がる。
〈メモ〉教会へのアクセス、見学方法、マナーなど詳細は、長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター(http://kyoukaigun.jp/)、おぢかアイランドツーリズムHP(http://ojikajima.jp/)で紹介されている。教会見学は事前連絡が必要。頭ヶ島天主堂はTEL:095-823-7650、同インフォメーションセンター。旧野首教会はTEL:0959-56-2646、おぢかアイランドツーリズム。長崎県の観光についてはTEL:095-826-9407、長崎県観光連盟へ。